抗うつ薬の使い分け(遺伝子から考える)
薬が効きすぎる?遺伝子とエスシタロプラム(レクサプロ)の関係
「お薬を飲み始めたけれど、吐き気が強くて続けられなかった」そんな経験はありませんか? 実はこれ、気合や体調の問題ではなく、ご自身の遺伝子の型、特に薬を分解する酵素のタイプ(遺伝子多型)が関係しているかもしれません。
今回は、当院でもよく処方される「エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)」を例に、最新の医学エビデンスに基づいたお話をさせていただきます。
日本人に多い薬が効きすぎてしまう体質
お薬が体に入ると、主に肝臓にある「酵素」という工場で分解されます。エスシタロプラムを分解するメインの工場は「CYP2C19」と呼ばれます。
国際的なガイドライン(CPIC)や複数の論文データによると、この工場の処理能力には明確な個人差があることが分かっています。
CYP2C19の代謝タイプとエスシタロプラムへの影響
| 代謝タイプ | 日本人の割合 | 特徴とエスシタロプラムへの影響 |
|---|---|---|
| PM(欠損型) | 約18〜22% | 血中濃度が通常の2〜3倍に上昇。副作用が出やすく、服用中断のリスクが高い。 |
| IM(低活性型) | 約35〜40% | 代謝がやや遅め。標準量でも副作用を感じる場合がある。 |
| EM(活性型) | 約30〜35% | 標準的な代謝。お薬の設計通りの効果が期待できる。 |
| UM(超速代謝型) | 数%以下 | 代謝が早すぎ、標準量では効果が出にくい。 |
データが示す通り、日本人の約5人に1人は「お薬が体に残りやすく、副作用が出やすい体質(PM)」です。さらに、活性が低いタイプ(IM)まで合わせると、日本人の約6割が、薬の調整に注意が必要なタイプに該当します。
エスシタロプラムの副作用リスクと科学的根拠
研究報告(Mrazekら, 2011など)では、代謝が遅いタイプ(PM)の方が標準量を服用した場合、そうでない方に比べて「副作用による服用中止率」が有意に高いことが示されています。
特に飲み始めに現れやすい「吐き気」「強い眠気」「倦怠感」などは、この血中濃度の急上昇が原因であるケースが少なくありません。
当院におけるエスシタロプラム処方の流れ
ラベンダーメンタルクリニック浜松町では、こうした科学的背景を踏まえ、患者様お一人おひとりに合わせた「オーダーメイドな処方」を心がけています。現状、例えば、事前に血液検査を行い遺伝子多型が判明するなどと言ったことは保険診療では難しいことから、一般的な日本人の大枠の割合を患者様に説明いたします。
ステップ①:丁寧なヒアリング
過去にお薬で体調を崩した経験はないか、ご家族にお薬が効きやすい方はいないかなど、あなたの「体質」を推測するためのヒアリングを重視します。
ステップ②:体質を考慮した薬剤の選択
もし「以前レクサプロで副作用が強かった」という方や、体質的に不安がある方の場合は、CYP2C19の影響を受けにくい他のお薬(セルトラリンなど)を検討したり、別の代謝経路を持つ薬剤を選択したりします。
ステップ③:低用量からの慎重なスタート
特に初めて抗うつ薬を服用される方や、代謝がゆっくりだと推測される方の場合は、「通常量の半分(あるいはそれ以下)」から開始し、血中濃度の急上昇を抑えながら体を慣らしていく方法をとります。
ステップ④:定期的なフィードバック
服用後の変化を細かく伺い、効果と副作用のバランスを微調整します。必要に応じて、血中濃度を一定に保つための飲み方の工夫もアドバイスいたします。
まとめ
抗うつ薬の使い分け(遺伝子から考える)について解説をしました。
ラベンダーメンタルクリニック浜松町は、浜松町駅から徒歩2分、大門駅B5出口直結の位置にある精神科・心療内科クリニックです。
当院の院長は、このようなうつ病患者に対する個別化治療に関する臨床精神薬理学の研究に携わってきました。まだまだ、日本の精神科医療において、現実的には客観的な指標を使える段階には至っていません。一方で、このような背景があることも加味しながら、当院ではヒアリングを丁寧に行い、エビデンスに基づいた「無理のない治療」をご提案します。「以前、薬でつらい思いをしたからもう飲みたくない」という方も、それはお薬自体が合わなかったのではなく、「量や種類があなたの体質に合っていなかっただけ」かもしれません。患者さんの特性や症状に合わせてオーダーメイドの治療や支援を提供するため、お薬へのご不安を抱えた方は一度お気軽にご相談ください。
執筆者
ラベンダーメンタルクリニック浜松町 院長・医学博士
中野 和歌子
- 日本精神神経学会精神科専門医・指導医
- 精神保健指定医
- 産業医科大学産業医学基本講座修了、日本医師会認定産業医
- 日本臨床精神神経薬理学専門医(精神科薬物療法専門医)
- 日本禁煙学会認定専門医
- 臨床研修指導医
- コンサータ処方医登録
- セリンクロ処方医
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