注意欠如・多動症
(ADHD)
注意欠如・多動症(ADHD)は、集中力がないことなどによる「不注意」、落ち着きがない、自分の順番をまてないなどの「多動性・衝動性」の2つの特性を中心としたものです。男性は多動・衝動症状が優勢になることが多く、幼少期からその特徴が表れて早い段階で診断されることが多いとされています。大人になって初めて診断される場合は、不注意によって仕事に影響が出てしまうことが多く、社会的な支障がでることで診断につながることがあります。
治療としては、まずは自己理解と、周囲の理解に基づいた環境調整が大事になります。診断にこだわることなく、まずは、日常の困っていることからスモールステップで解決を行っていきましょう。失敗体験が継続して、自己肯定感が下がる体験が積み重なることはよくありません。逆に、小さな成功体験を増やして自信を回復するプロセスも大事になります。
薬物療法としては、診断や十分な環境調整を行ったうえで、複数の選択肢から処方を選択します。初診時に処方は出来かねますのでご了承ください。
ここからは、診断、治療について詳しく説明します。
【ADHDの診断】
①不注意の症状と②多動性・衝動性の症状が9つずつ含まれています。
① 不注意の症状
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細部に注意を払わない,または学業課題やその他の活動を行う際にケアレスミスをする
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学校での課題または遊びの最中に注意を維持することが困難である
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直接話しかけられても聴いていないように見える
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指示に従わず,課題を最後までやり遂げない
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課題や活動を順序立てることが困難である
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持続的な精神的努力の維持を要する課題に取り組むことを避ける,嫌う,または嫌々行う
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しばしば学校の課題または活動に必要な物を失くす
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容易に注意をそらされる
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日常生活でもの忘れが多い
① 多動性・衝動性の症状
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手足をそわそわと動かしたり,身をよじったりすることが多い
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教室内またはその他の場所で席を離れることが多い
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不適切な状況で走り回ったり高い所に登ったりすることがよくある
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静かに遊ぶことが困難である
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じっとしていることができず,エンジンで動かされているような行動を示すことが多い
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過度のおしゃべりが多い
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質問が終わる前に衝動的に答えを口走ることが多い
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順番を待てないことが多い
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他者の行為を遮ったり,邪魔をしたりすることが多い
①と②の両方、もしくはどちらかが5つ以上当てはまり、症状は以下の条件を満たす必要があります。
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しばしば6カ月以上認められる
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患児の発達水準から予測されるよりも著しい
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少なくとも2つ以上の状況(例,家庭および学校)でみられる
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12歳前に(少なくともいくつかの症状が)みられる
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家庭,学校,または職場での機能を妨げている
上記のような問診に加えて、当院では、以下の簡易検査を行います。
成人期のADHD(注意欠如多動性障害)の自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1)
また、診断や治療の過程で、認知発達の水準を評価し、その方の得意分野、不得意分野を分析することで、就労上や生活上での支援の方向性を検討するなどの目的で利用するために知能検査(WAIS-IV)を受けていただくことが良い場合があります。
こちらは、簡易にできるものではなく、半日ほど時間を要します。当院では現在実施ができませんので、必要と判断される場合は、検査実施のために他院を紹介させていただきます。
難しく書くと上記になりますが、実際の診療場面では、患者さんの書いていただいた問診をもとに、診療でお話を伺いながら、限られた時間内に判断をする必要があります。また、多方面から判断をする必要があり、一回の診察だけでは診断をつけることが困難なこともあり、検査や随時お話をうかがいなから、通院をしていただき診断をつけることになります。ADHDの方の特性として、「すぐに結論が欲しい」「待てない」方が多いです。そのため、安易に診断をしてくれる病院や検査機関を日々調べて、1か月の中で何度も別の医療機関を複数受診してしまうこともあります。まずは、診断まで時間がかかることをご留意の上、一つの医療機関にひとまずは任せて数か月通ってみることも大事です。
大人のADHDは、大人になってからはじめて発症するものではありません。子どもの頃(12歳以前)から症状があることが診断基準としても一つの要素になります。症状が軽い場合は、子どもの頃は、保護的な環境にあり例えば忘れ物などは、親御さんが管理していて、社会的には目立たなかったこともあり、見過ごされていたということも多々あります。大学生になり一人暮らしを始めた場合や、就職したり、結婚などによって人間関係が複雑になったり、社会的な責任が強くなることで、特性が表面化することがあります。適応障害やうつ病になった場合、認知機能が低下することで一時的に、不注意、物忘れなどが増えることがあります。発達障害の理解がすすみ、横断的にそこだけを切り取り「発達障害ではないか」と受診されることも増えています。発達障害に限らず、精神疾患は診断基準はありますが、実際の臨床の場面では例えば血液検査や画像検査など明確な客観的な指標はなく、医師のトレーニングによる経験などに任せられているところが現実です。診断が経緯の中で変わることもよくあります。精神科領域の特殊性によるものとは思いますが、まだ解明されていないことの方が多く、多くの診断や治療が「こうではないか?」という仮説のもとに成り立っています。
【ADHDの治療】
●考え方、治療の目的
上記で診断を根拠をもってつけたあとに、治療に入るわけですが、診断自体を悲観的、マイナスにとらえる必要はありません。
ご自身の特性をより理解するため、整理するための一助だと思っていたければと思います。実際にADHDの特性を持ちながらも社会で活躍している方は少なくはありません。むしろ、特性があるからこそ独特のアイディアが生まれて偉業を成し遂げた方も多いと思います。多くの発明をしたエジソンもその一人と考えれています。エジソンは小さいことからいろんなことに興味があり、「なぜ?」という質問を繰り返して周囲の大人を困らせたり、ガチョウの卵を自分でふ化させたくて何時間も卵を抱えたりしていたりなどの数々の特性に伴うエピソードがあります。エジソンの母親はこの好奇心に理解を示し、エジソンの好奇心の思うままに探究することを全面的に支援しました。このことからもわかるように、身近な大人の理解、支援がとても大事だということです。こうした、ADHDの特性ともいえる、豊かな発想、創造性があってから、生涯で多数の発明を成し遂げられたのだと思います。エジソン以外にも、織田信長、坂本龍馬などもADHDではないかと言われています。最近では、ADHDと公表されている著名人の方もたくさんいらっしゃいます。黒柳徹子さんの窓際のトットちゃんは映画にもなり話題にもなりました。
今、特性によりお困りの方は、特性により人間関係に支障がでたり、仕事上での支障がでたり、さまざまであると思います。治療をして治すという考え方よりも、ご自身の特性を理解して、うまくコントロールすることでよりスムーズで快適な社会生活を送ることを治療の一時的な目標にしていただけたらと思います。治療としては、薬で症状をやわらげることや、行動の改善を図り、対処法を身につけることなどが行われています。苦手なことを克服することだけにエネルギーを注ぐのではなくく、得意なことを活かすことによって、より楽に生活する工夫を見つけていきましょう。
●生活の工夫、行動療法
診察では、すべてのお困りごとをすべて、一度に解決することは難しいため、お困りごとの優先順位(3から5つ)を挙げていただき、それに対して現実的に可能な生活上できる工夫をアドバイスしていきます。仕事に関してのお困りごとであれば以下のサイトが参考になると思います。
大人の方は、これまで社会生活に大きく支障をきたさなかったということは、ご自身でも小さな生活上の工夫を意識的にも無意識にでもされてきた方が多いです。例えば、カギをなくしてしまう方は、チェーンをつける、Airtagをつけるなど工夫をされています。現代では様々な便利な道具も出てきています。特性を理解して、カバーするものをたくさん持っておくと、不注意による社会的な支障は減ることになると思います。一つ一つ工夫を行うことで生活上の支障が減り、気持ちの面でもだいぶ楽になっていくと思います。
●薬物療法
環境調整や行動療法をまずは行ったうえでのことにはなりますが、薬物療法も効果的です。
ADHDに限らず、お薬はなぜ飲むのか?まずは、その病態とその理由を説明する必要があると思います。精神科のほとんどの疾患はある程度こうではなかろうか?という病態仮設のもとに薬物療法のエビデンスが重ねられていますが、ADHDでは現時点では、以下のことがエビデンスに基づいたスタンダードになっています。
ADHDの病態はまだはきりとしたことは解明されていませんが、脳の前頭前野(実行機能をつかさどる部分)を含む脳の働きに偏りがあると考えれています。脳の神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンの働きが不足していることもわかっています。これらのドパミンやノルアドレナリンの働きが十分に発揮できないために、不注意や多動性でがあらわれるのではないかと言われています。そのため、これらの脳の神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンの働きを改善するための薬物が開発されてきました。
現在、大人のADHDの治療薬として本邦で認可されているものには、メチルフェニデート徐放錠(コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)があります。3つともそれぞれの得意不得意があります。またADHDの個々人の症状にもよることや実際に内服した後の効果や、副作用の発現、飲み忘れがないか、既往歴、経緯などを伺いながら薬物療法の選択を行っていきます。
コンサータは脳内のドパミンを増やすことで覚醒度をあげて、不注意や、頭の中の雑音の改善に強い効果を発揮します。効果は非常に高く即効性があります。副作用は吐き気、食欲低下などがあげられます。ドパミンに作用をすることから依存性があるため、登録した医師ではないと処方はできません。当院の院長は登録医のため処方は可能です。効果発現が1日ででるため、仕事の日だけのみ、仕事が休みの日は休薬するという飲み方をすることもあります。
ストラテラは前頭皮質における、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害しノルアドレナリンを増やします。(SNRIと類似しており、元来、抗うつ薬として開発された経緯もあります。)初期投与量の40㎎から開始して、維持量の80㎎から120㎎まで増やして効果発現を見ます。血中濃度がじわじわと上がり、その後、効果が初めて出てくるため、効果発現には時間を要し、最低でも2週間以上を要します。副作用として投与初期に吐き気が約半数の方に出ると言われています。そのため、投与初期にガスモチンや、時には吐き気止めとしてプリンペランなどを併用します。血中濃度が適切にあがるように、できるだけ毎日忘れずに飲んでいただくことが大事になります。また、添付文書上の内服は1日1回、または2回になり、特性上、飲み忘れる方が多いので1日1回を選択を推奨しますが、吐き気の副作用が強い場合は、2回に分けて内服すると緩和することもありますのでその場合は飲み方を工夫し調整します。また、後発医薬品も発売されているため、費用面で抑えられるメリットもあります。
インチュニブは脳内のドパミン、ノルアドレナリンの受け取りをしやすくすることで、神経系を活性化させます。コンサータ、ストラテラと異なり、静穏作用を持ち副作用として吐き気が少ないことが特徴です。もともと高血圧の薬として開発されていた経緯があり、副作用は、低血圧、傾眠などがあります。眠気が強く出るため、1日1回の内服ですが、夕食後以降に飲むことを推奨することが多いです。後発医薬品は現在発売はされていません。
これらの薬物療法は、一定期間内服の必要はありますが、一生内服する必要はないとも言われています。周囲の状況の変化やご本人の特性への工夫が現実的になることで、社会適応が改善することにより薬物療法が必要でなくなることもあります。
●周囲の人の理解と実態としての困りごと
エジソンのエピソードにもありましたように、周囲の理解はとても大事になります。ご本人の特性を生かして素晴らしい能力を発揮できるか、あるいは、頭ごなしに叱責されることが続き、ご本人の自己肯定感を下がり、二次障害として適応障害、うつ状態をきたしたり、児童であれば不登校に至るなど社会的な支障をきたすことが多々あります。このホームページをご自身のお困りごとしてご覧いただいている以外に、ご家族にあてはまるのではないか?職場の上司や同僚などであてはまるのではないか?と思われている方もおられるかもしれません。
特性により、不注意によりミスが多発することで特に就業上では困る場面、事例性になることが多々あります。業務によって特性により得意不得意を整理すること、ご本人以外にも職場の理解、配慮が少しあることで、改善することもあります。
とはいえ、現実的にはすぐに改善することは少ないため、とてもエネルギーを要する作業になり、本人の特性を生かすための支援は、日々のことで、きれいごとでは済まされず、感情を揺さぶられることも多く、周囲の人々は疲弊することもよくあります。
特にお子さんが発達特性(子供の発達障害、子どものADHD)をお持ちの親御さんはとても大変な労力を要することと思います。子育ては、いろんな選択肢があり、正解がない中、多数の情報もあふれています。その中で、発達障害ではないか、ADHDではないか、などなど調べていくうちに診断がついてしまうこと自体に不安になり、受診すること自体も抵抗があること、また、いざ受診しようと思うと児童を対象とした精神科の医療機関は限られており初診まで、数か月待ちということもあります。
当院では、子どもの発達障害に対する直接的な治療は行っていませんが、周囲のかかわる成人の方に対して、ご本人への接し方、アドバイス等の支援による治療は可能です。このようなお困りごとが要因となり、気持ちが不安定になったり、不眠などの症状が生じることもあります。症状が軽度でも受診していただいてもかまいません。お一人で抱え込まずに、まずはお気軽にご相談ください。お困りごとを整理して、お気持ちが楽になる方向を探っていきましょう。またお子様の受診も、お住まいの地域等にあわせて子どもの発達障害を専門とした適切な医療機関を紹介させていただきます(ご予約が先になる可能性があることはご了承いただければ幸いです)。