うつ病の治療法には何がある?代表的な4つの方法
うつ病の治療にはさまざまな方法があり、患者さんの希望を取り入れながら、症状や状態に応じて適切な治療法が選ばれます。
主に休養や環境調整、精神療法、薬物療法が基本となりますが、場合によっては光療法や運動療法などの補助的な治療が用いられることもあります。
また、抗うつ薬の効果が実感できない場合や治療の進展に不安を感じる時があれば、医師との相談も大切になるでしょう。
この記事では、うつ病の代表的な治療法や、治療中の生活で意識すべき点、薬や治療に不安を感じた時の対応などについて紹介します。うつ病の治療で疑問や悩みがある人は、ぜひ参考になさってください。
うつ病回復までの3ステップ
うつ病の治療は時間がかかることが多いですが、段階的に少しずつ進んで行きます。
ここでは、うつ病の診断が出てからの急性期・回復期・再発予防期など3つの治療ステップについて紹介します。
急性期
うつ病の診断が出てから約3か月頃までは急性期と言われることが多いです。
3か月はあくまで目安であり、個人差がありますが、それより早い・遅いことがあったとしても、焦りや不安を持つ必要はありません。
無理をせずにリラックスした環境で、ゆっくりと心身を癒やしていきましょう。
また、この段階で薬の効果を実感できなくても焦らないでください。
うつ病の薬は即効性を期待するものではなく、計画的に服薬することで効果が実感できる仕組みです。医師の指導のもと、適切な服薬を続けていきましょう。
回復期
急性期を経て、診断から約4~5か月経過すると回復期に入ります。文字通り回復を進める時期ですが、必ずしも安定しているわけではなく、調子のよい日・悪い日を行き来することも少なくありません。
しかし、調子のよい日が続くようになると、「自分はもう治った」と考えて、通院をやめたり自己判断で服薬をやめたりしてしまう患者さんもいます。
あくまで『調子のよい日が続いている』だけであり、うつ病が寛解したわけではありません。
症状が悪化する恐れがあるため、自己判断による通院・服薬の中止は決してしないでください。
また、この時期から生活のリズムを整え始めるようにアドバイスする医師も多いです。
再発予防期
うつ病の診断を受け、治療をスタートしてから約1~2年頃は再発予防期にあたります。
この時点で仕事を再開し、うつ病から完全に回復したように見える患者さんも多いですが、うつ病の再発についてまだ用心する必要のある時期です。
再発防止のためには以下のようなことが重要になります。
- 通院や服薬を突然やめない
- 異変に気付いたらすぐ医師へ相談する
- 家族、友人などに協力してもらう
服薬を突然中止すると、体調の変化や症状の悪化の恐れがあります。また、自分で何らかの変調を感じたら、すぐに医師へ相談しましょう。
家族や友人、職場の人たちの協力があれば心強いです。睡眠の乱れやイライラしている様子、気分の落ち込みなどが目立つようになったら、再発の兆候ととらえ、伝えてもらうようにするのもよいでしょう。
うつ病の治療法は重症度やステップに応じて変わる
うつ病の治療では、患者さんの症状や生活背景に応じて、さまざまな方法が組み合わされます。基本となるのは休養と環境の見直し、医師の判断による精神療法や薬物療法です。
ここでは、代表的な治療法について紹介します。
休養・環境調整
うつ病の治療でまず重視されるのが、十分な休養を確保することと、ストレスの多い環境を調整することです。
強い疲労や精神的な負担が続くと、うつ症状が悪化する原因になります。そのため、以下のような方法が選択されることがあります。
- 学校や仕事を一時的に休む
- 生活環境を整える
- 安心できる場所で過ごす時間を確保する
周囲の理解を得ながら日常の負担を軽減し、心と体を休ませることが回復への第一歩です。
軽症であれば、抗うつ薬は使用せずに生活リズムの見直しや環境調整を行うことで改善を目指します。
特に、重症の場合は休養がとても重要です。自宅療養での対応が難しい場合には、入院がすすめられることもあります。
精神療法
うつ病の治療で用いられる精神療法に『認知行動療法』があります。これは、物事の受け取り方や行動パターンに働きかけ、否定的な思考を少しずつ修正していく方法です。
うつ病の人は、「自分には価値がないに違いない」「何をやっても無駄なんだ」といった思い込みに苦しむ傾向があります。
認知行動療法は、そのような思考を客観的に捉え直し、現実に即した考え方へ導くことを目指す方法で、医師や臨床心理士のサポートを受けながら段階的に進められます。
軽症の場合は良好な結果につながることが多く、重症の場合でも改善が期待される治療法のため、医師と相談しながら無理なく進めていきましょう。
薬物療法
うつ病は、脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質が減少することで症状が現れると考えられており、これに対して抗うつ薬が有効です。
セロトニンの減少は不安・落ち込みを招き、ノルアドレナリンの減少は気力・意欲の低下、ドーパミンの減少は物事への興味・関心の喪失につながります。
抗うつ剤はそのような症状に作用し、改善を目指す薬です。
薬物療法では、主に以下のような薬が使われます。
- 【1】SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):セロトニンの働きを高め、不安や落ち込みを改善します。
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- パロキセチン(パキシル)
- エスシタロプラム(レクサプロ)
- セルトラリン(ジェイゾロフト)
- フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)
- 【2】SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬):セロトニンとノルアドレナリンの両方に作用し、気力や意欲の低下を改善します。
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- デュロキセチン(サインバルタ)
- ベンラファキシン(イフェクサー)
- ミルナシプラン(トレドミン)
- 【3】NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動薬):セロトニンとノルアドレナリンの分泌を促し、セロトニンの働きを向上させる薬です。
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- ミルタザピン(リフレックス、レメロン)
- 【4】S-RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節):SSRIの効果に加え、さらにセロトニンの働きを高め、抗うつ効果や抗不安効果を発揮します。
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- ボルチオキセチン(トリンテリックス)
多くの場合、抗うつ薬の効果が現れるまでには2~4週間ほどようします。服用初期に効果が感じられなくても焦らず、医師の指導のもとで計画的に服用していきましょう。
ただし、うつ病の症状が重症で、標準的な薬物治療を一定期間行っても効果が認められない場合、m-ECTのような別の治療を選択することもあります。
また、軽症の場合は薬を使わずに治療する選択肢もあるため、薬の使用に不安がある場合は医師に相談してみましょう。
当院ラベンダーメンタルクリニック浜松町でも、お薬を使わずに治療したい場合にはご相談が可能です。遠慮せず、お気軽にお話しください。
抗うつ薬に効果がないと感じた場合の対処法
抗うつ薬を服用しても症状が改善しないと感じた場合は、自己判断で服薬を中止するのではなく、医師と相談したうえで治療方針を見直すことが重要です。
治療には個人差があるため、効果の現れ方にも違いがあります。
抗うつ薬の効果が十分に得られなかった場合に検討される代表的な対処法は以下の通りです。
増強療法 | 現在使用している抗うつ薬の効果を高めるために、向精神薬や気分安定薬を追加で用いる方法 |
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切り替え療法 | 現在使用している抗うつ薬から、別の種類の抗うつ薬に変更する方法 |
その他の治療法
基本的な治療に加え、症状や反応に応じて補助的に取り入れられる治療法も存在します。
次の項から、TMS療法、修正型電気けいれん療法(m-ECT)、運動療法について紹介します。
TMS療法(経頭蓋磁気刺激療法)
TMS治療(経頭蓋磁気刺激療法)は、磁気で脳の神経細胞を刺激し、うつ病や強迫性障害の改善を目指す治療法です。
薬が効かない患者さんにも効果が期待され、副作用が少なく、安全性も高いとされており、日本では2019年から保険適用治療になりました。
1回の施術は短時間で済み、日常生活を圧迫しにくいことも特徴のひとつです。再発率も低く、薬物療法のような従来の治療法と並び、新たな治療法として注目を集めています。
ただし、頭部に金属がある方やてんかんの既往歴がある方は受けられないことがあり、事前の診察や相談が重要です。
修正型電気けいれん療法(m-ECT)
修正型電気けいれん療法(m-ECT)は、自殺の恐れがある重度のうつ病や、双極性障害などに用いられる治療法です。
麻酔をかけた上で微弱な電流を脳に流すことで症状の改善を図ります。
従来の電気けいれん療法に比べ、けいれんが起こらないように改良されており、患者さんの身体的な負担が軽減されるようになりました。
副作用として一時的な記憶障害が見られることもありますが、効果が期待できる治療の選択肢のひとつです。
この治療法が用いられる際は入院管理が行われることが多く、医師、麻酔医師、看護師によって進められます。
運動療法
運動療法とは、言葉の通り運動を取り入れた治療法です。
運動によって脳内の神経伝達物質が活性化されると考えられており、睡眠や食欲など生活全体のリズムが整いやすくなる点が特徴です。
運動療法では以下のような運動がよく取り入れられています。
- ウォーキング
- ストレッチ
- ヨガ など
また、強度が高い運動はうつ症状にプラス効果があるという報告もされています。無理のない範囲で筋力トレーニングのような負荷の高い運動をするのも効果が期待できるでしょう。
うつ病治療中の生活で意識したいこと
うつ病の治療には、適切な休養や治療だけでなく、日常生活の過ごし方も大きく影響します。生活リズムやリラックスする時間、食生活、通院・服薬などに注目するとよいでしょう。
ここでは、うつ病治療中に意識すべき生活習慣について紹介します。
生活リズムを整える
うつ病の治療中は、毎日の生活リズムを整えることが重要です。特に睡眠のリズムが崩れると、気分の変動が激しくなったり、体調が悪化したりする原因となるため注意が必要です。
しかし、治療の初期に行うことはあまり推奨されていないません。そのため、初期の症状が落ち着き、回復期に入ってから、医師と相談の上で少しずつ進めていくとよいでしょう。
回復期からは以下のような習慣を取り入れると効果が期待できます。
- 朝は一定の時間に起きる
- カーテンを開けて日光を浴びる
- 寝る前はテレビやスマートフォンの使用を控える
テレビやスマートフォンは脳に刺激を与え、睡眠の質を低下させる恐れがあります。寝る時間より少し前には使用を中止するとよいでしょう。
日中には散歩や簡単な体操などを取り入れると、無理なく体を動かせます。毎日を安定して過ごすことが、症状の改善につながるでしょう。
リラックスできる時間を作る
うつ病の治療では、ストレスを溜め込まないことが大切です。以下のようなことを意識してみましょう。
- 何もしない時間を過ごす
- 軽く体を動かす
- 自然に触れる
- 好きな曲をかけてみる
- アロマテラピーなどを使ってみる など
こうした過ごし方は、心身の緊張をほぐし、自律神経のバランスを整える効果も期待できます。
無理に前向きになる必要はなく、自分にとって落ち着ける時間を意識して確保することが、回復を支える日々の習慣になるでしょう。
食生活の見直し
急性期や治療初期はあまり食べられないかもしれませんが、治療が進み、回復期・再発予防期になれば食欲が戻ることが多いです。様子を見ながら食生活を見直してみましょう。
毎日の食事は、心と体の調子を整える基盤となります。脳の働きを助ける効果が期待できる、DHAやEPAを含む青魚、ビタミンB群、マグネシウムなどを摂取しましょう。
例えば、以下のような食材が代表的です。
栄養素 | 食材 |
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DHA、EPA | さば、いわし、あじ、さんま、まぐろ、かつお、ぶりなど |
ビタミンB群 | ナッツ、緑黄色野菜、豚肉の赤身、玄米、レバー、納豆、卵、刺身、鶏肉 など |
マグネシウム | 蕎麦、きび、全粒粉パン、豆類など |
一方、スナック菓子や糖分の多い飲み物、カフェインの過剰摂取は、血糖値の急激な変動を引き起こし、気分の不安定さにつながることがあります。
このほか、サプリメントも活用して上手な栄養コントロールをするのもおすすめです。
通院・服薬
うつ病の治療では、通院と服薬の継続が大切です。医師に処方された薬を指導通りに飲むようにしましょう。
抗うつ薬は効果が出るまでに時間がかかる場合もありますが、自己判断で服用をやめてしまうと再発や悪化のリスクが高まります。
治療中に副作用や体調の変化が気になるときは、必ず主治医に相談し、一緒に対応を考えることが大切です。
通院時には、気になる症状や気分の変化を正直に伝えることで、治療の方向性を見直す手がかりになります。信頼関係を築きながら治療を進めましょう。
また、症状によっては薬を使わない治療法を選択できることもあります。ラベンダーメンタルクリニック浜松町でもご相談いただけますので、ご希望の際には主治医に相談してください。
うつ病の治療の効果に不安を感じたら?
うつ病の治療には時間がかかることが多く、すぐに効果が出ないと不安になる人も多いでしょう
しかし、治療の効果を感じられないからといって悲観的になる必要はありません。
ここでは、うつ病の治療に不安を感じたときの考え方や対応方法について紹介します。
悲観せずに主治医と相談
抗うつ薬を服用していても効果が見られないと、不安や焦りを感じる場合があります。
薬の効果が現れるまでには一定の期間が必要であり、すぐに結果を求めるのは難しいですが、時間の経過とともに効果が実感できることは決して少なくありません。
大切なのは、自分の判断で治療をやめず、必ず主治医と相談することです。
治療法の見直しや薬の調整によって改善の可能性があるため、一人で抱え込まず、信頼できる医師と状況を共有しながら進めていきましょう。
休養と服薬を意識する
治療中に効果が感じられないときは、休養の質や服薬のタイミングにも注目する必要があります。
十分な休息が取れていなかったり、服薬を忘れていたりすると、治療効果が出にくくなることがあります。
また、生活リズムの乱れが症状の悪化を招く場合もあるため、規則正しい生活を意識することも重要です。
改善が見られないと感じた際も、自己判断で薬をやめず、処方通りに服用を続けながら、医師に相談してください。
他の病気の可能性もある
うつ病だと思って治療を受けていても、実際には別の疾患が関係している場合も考えられます。
例えば、甲状腺の異常、双極性障害などは、うつ病と似た症状を示すことがあります。
症状に違和感がある場合や、治療を続けても効果が感じられない時には、改めて医師に相談し、必要に応じて他の疾患の検査や診断も検討しましょう。
まとめ
うつ病の治療には、休養、精神療法、薬物療法、運動療法、TMS、m-ECTなど多数の方法があります。治療効果の現れ方には個人差があり、焦らず継続することが大切です。
また、日常生活では生活リズムの見直しや服薬の管理を心がけましょう。 効果が感じられない場合も自己判断せず、主治医と相談してください。
治療が進まない原因には別の疾患が隠れている可能性もあるため、違和感があれば他の詳しい検査を受けることも視野に入れましょう。
ラベンダーメンタルクリニック浜松町では、うつ病の治療法に疑問や不安がある患者さんへ対し、納得していただけるまでご説明しています。
症状によってはお薬を使わずに治療をしたいというご希望にも対応可能ですので、遠慮なくご相談ください。